f植物園の巣穴
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~埋もれた記憶を掘り起こす長編小説。~
月下香の匂ひ漂ふ一夜。植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界でした。
前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神……。人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、主人公ははゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。
明治・大正時代の時代設定で、夏目漱石の文体を思わせる小説です。
巣穴に落ちていく設定は、自分は何なんだろうと想像した時に、段々と自分の中に落ちていく雰囲気に似ています。
そこで主人公は過去の自分、更に言えば過去のトラウマと向き合う事になります。
私の中にも穴とも巣穴とも言えない穴があって、その中にはあまり良い物は住んでいないように思います。
でもそもそもが自分と向き合うとはそういう事なのかもしれません。そこに神聖なものが住んでいて欲しいけど、実際はネズミの様な小さな生き物かもしれない。それを知る事が自分と知ろうとする事なのかもしれません。